フリーランスにとっての経費とは
そもそも経費とは
経費とは、事業を遂行する上で、必要な費用のことです。
もともとは「経常費用」の略称です。
個人も法人も「課税所得」に応じて税金を納めるわけですが、必要経費(法人なら損金)として計上できるものが多いほど、課税所得が減るため、納める税金が減ります。
必要経費になるかならないかの判断基準は、「売上を立てるために必要な費用かどうか」です。
「いつもは家で使うが、ごく稀に仕事でも使う」というようなものにかかる費用は、経費として計上できません。
「一般的に必要と思われているかどうか」は関係ありません。
ただし、その支出が事業の規模に見合うだけのものか(経済的合理性)ということが認められる必要はあります。
経費として計上する金額が不自然に大きすぎる場合は、必要経費ではないものも計上しているのではないか、税務署に怪しまれてしまうこともあり得ます。
節税は合法ですが、度が過ぎると租税回避行為に当たる場合があります。
経費で落とすとお金が返ってくるんでしょ?
そんなことはありません
割とよくある勘違いとして、「経費で落とすとお金が戻ってくるんでしょ?」ということがあります。
もっとひどいと、「自営業はずるいよな」くらいに思われている方も(笑)
結論から言うと、そんなことはありません。
サラリーマンにとっての「経費」と自営業者・事業主にとっての「経費」は、ニュアンスや背景が少し異なります。
サラリーマンにとっての経費
サラリーマンの方が言う「経費になる、経費で落ちる」は、「一旦自分の財布からお金を出しても後でお金が返ってくる」ということを意味します。
おそらく「経費になる=懐が痛まない」という認識ではないでしょうか。
そのお金はどこから出てくるのか?
会社が出してくれるのです。
会社が出してくれるお金は、どこから入ってくるのか?
資金調達の源泉は様々ありますが、株主の出資金・資本金、融資・借入金、事業の利益などがわかりやすいかと思います。
ちなみに、一人株式会社の場合は、社長がただ一人の「株主(=出資者であり、会社の所有者)」を兼ねている場合が多いです。
また、法人ではありませんが、個人事業主も「お金を出す人」と「事業をする人」が同一人物です。
そのようなオーナー社長や個人事業主の場合は、経費にできても、結局出どころとしては自分で稼いだお金です。
自営業者・事業主にとっての経費
自営業者・事業主にとって「経費になる、経費で落ちる」とは、「事業の利益(所得)がその分減るので、いくらか税金が安くなる」ということを意味します。
「自営業はずるいよなぁ」と思われている方のために、再度強調しましょう。
「事業の利益(所得)がその分減る」というところを。
事業の税金は、ざっくりですが「収入ー必要経費ー各種所得控除=課税所得」(法人なら、益金ー損金=課税所得)の課税所得が多いほど納める税金も多くなり、課税所得が少ないほど納める税金も少なくなります。
経費計上できるもの(経費・損金として認められるもの)が多ければ、その分税金が安くなります。
基本的には、経費を計上して、その金額の何割か税金が安くなっても、それ以上にお金が出て行っているのです。
経営方針や売上高、考え方・捉え方次第ですが、「経費にできるから、いくらでもお金を使える、どんどん使った方がいい」というような仕組みになっている訳ではありません。
補助金・助成金など特殊な場合は、条件に該当する経費・使ったお金が一定の割合で戻ってくる(上限金額が決まっている)ということもあります。
普段から使ってきたお金について、経費計上すれば国や自治体からいつでも全て戻ってくる、というような魔法はありません。
事業主として生きたお金の使い方ができれば、事業がうまく回り、また収益が生まれお金が入ってきます。
いくらか税金が安くなる以上に、出て行っている金額の方が結局大きいです。
売上を立てて事業を継続・成長させるための必要経費は、適切な範囲で惜しまずに使うと良いと思います。
しかし、もし単純に「税金を安くするために、たくさん経費を使って節税しよう」という方向性だとなかなかお金が手元に残らない、資産が積み上がっていかない、という結果になりやすいです。
ある程度お金を稼げている自営業者・事業主なら、自由に経費を使えたり自分で何かと意思決定ができるということは、色々と有利な側面があります。機会があれば別の記事で書いていけたらと思います。
一つには、「税金を合法的にコントロールできる・手段の幅が広がる(正当なやり方で豊かになっていきやすい)」ということがあります。
●サラリーマンの場合: 「稼いだお金」ー「所得税・住民税・社会保険料(基本天引き)」=「手取り収入」←税金等を先に引かれて、残ったお金を使える
●個人事業主の場合: 「稼いだお金」ー「経費」=「所得」←自分の意思で事業に必要なお金を自由に使ってから、所得(利益)に応じて税金・健康保険料(税)が決まる
●一人会社(法人)の場合: 給料(役員報酬)を自分で決められて全額経費(損金)になる(※要件有り)、
役員報酬が経費になるので法人・個人あわせて手元に残るお金ができるだけ多くなるように計画しやすい、
自分の意思で事業に必要なお金を自由に使ってから、所得(利益)に応じて税金が決まる、
節税しながら将来受け取れる年金額も増やせる など色々
いくらまで?フリーランスの経費の割合・経費率
経費の割合・経費率とは
経費率とは、個人事業主・フリーランスの収入(売上高)に対する経費の割合です。
経費率=経費÷収入
経費率の目安・上限
フリーランスエンジニア・Webデザイナーなどの経費率は50~60%が目安と言われることが多いです。
国税庁や税務署が明確に経費率の目安や判断基準を公開している訳ではありません。
前述の理由で、経費計上する金額が増えるほど、利益・所得が減り、納めるべき税金が減ります。
そのため経費率があまりにも高すぎると、本来経費ではないものを不正に計上しているのではないか、税務署に疑われてしまうことがあり得ます。
適正と思われる経費率は、業種や売上規模、事業の成長ステージなどによっても変わります。
例えば創業期などは、収入(売上高)がまだ少なかったり、売上を立てていくための先行投資となる費用も多かったりするので、経費率が高めになってしまうのも比較的自然なことです。
逆に経費率が少なめで経費率50%以内ならば、何を経費計上しても絶対に認められる、ということでもありません。
経費率も参考にされるかもしれませんが、あとは、経費になるかならないかの判断基準が基本として大切です。
- 売上を立てるために必要な費用(世間一般的に必要と思われているかどうかは関係ない)
- 経済的合理性が認められる(その支出が事業の規模に見合うだけのものか)
「どのようにお金を活かして売上を立てていくか、どういう方針で事業を伸ばしていくか」ということは事業主が判断・意思決定できるものです。
そのため基本的には、経済的合理性が認められ、売上を立てるために必要な経費であると説明できるものについては、経費計上することは問題ありません。
逆に言うと、合理性・必要性・理由をきちんと説明できない費用ならば、経費にすべきではありません。
50%というのはあくまで目安に過ぎないので、経費率をあまり気にしすぎることなく、事業を遂行・継続・成長させていくための必要経費は適切に使っていくのが良いと言えます。
どこまで?フリーランスが経費にできるもの
経費一覧・勘定科目の例
- 地代家賃(家事按分)
- 水道光熱費(家事按分)
- 旅費交通費
- 通信費
- 広告宣伝費
- 支払手数料
- 新聞図書費
- 外注工賃
- 租税公課
- 諸会費
- 減価償却費
- 打合会議費
- 接待交際費
- 消耗品費
- 車両費(家事按分)
- 雑費
- 給料賃金(従業員を雇う場合)
- 専従者給与(条件を満たし、家族への給与を経費計上する場合)
地代家賃(家事按分)
事業用スペースの専有面積や業務時間の割合など、実態によって人それぞれですが、家賃の50%を経費とすることもできます。
水道光熱費
業務時間の割合など、実態によって人それぞれですが、水道光熱費の50%を経費とすることもできます。
旅費交通費
- 仕事のための電車代・ガソリン代・高速代・タクシー代
- 仕事のための出張費・ホテル代 など
通信費
- インターネット料金・電話料金・スマホ代
- 切手代・郵便代 など
広告宣伝費
- インターネット広告費用
- パンフレット・チラシ作成費
- 名刺作成費 など
支払手数料
- 税理士費用 など
新聞図書費
- 仕事関連のスキルアップ・学習・情報収集のための書籍・雑誌代 など
外注工賃
- 自分の事業・ビジネスにおいて、外部のフリーランスに業務を委託する際の外注費 など
租税公課
- 個人事業税(一部の個人事業主)
- 固定資産税
- 自動車税(勘定科目「車両費」を使う人もいる)
- 印紙税 など
諸会費
- 業界団体・協会などの会費 など
減価償却費
取得価額が10万円未満のものは消耗品費などとして経費計上できますが、取得価額が10万円以上の場合は、原則資産計上が必要です。
資産計上したものは、定められた耐用年数に応じて、分割して経費計上していくことになります。
減価償却処理のほか、金額によっては、少額減価償却資産の特例処理(青色申告の個人事業主は、1個30万円未満のものは経費計上できる、年合計300万円まで)、一括償却資産処理のいずれかも選べるのですが、この記事では割愛します。
高額な物や車・不動産などを購入する際の注意点は、このように資産計上が必要となり、一度に全額を経費計上できないことです。
もし購入の際に現金一括で支払った場合、手元からまとまったお金が出て行っているのに、その年に経費にできる金額は一部なので、その分税金としても多めにお金が出ていくことになります。
仕組み・流れをよく理解して計画的に行わないと、その金額の大きさや売上規模・経営状況によっては、資金繰りが苦しくなる可能性もあります。
打合会議費
- 営業・商談・ミーティングなどの際の食事代・お茶代(1人当たり5000円以下である飲食代)
接待交際費
- 得意先、仕入先その他事業に関係ある人に対する接待・飲食代(1人当たり5000円を超える飲食代)
- 贈答品やその他事業活動を続けていくために必要な交際に係る費用
国税庁の公式サイトによると、
「交際費等」とは、交際費、接待費、機密費、その他の費用で連結法人がその得意先、仕入先その他事業に関係ある者等に対する接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為のために支出するものをいう
出典:『第1款 交際費等の範囲|国税庁』
と定義されています。
法人の場合、接待交際費は原則として損金不算入ですが、多くの中小企業は今のところ特例措置として、上限付きで損金算入が認められています。
接待などの飲食代であっても、1人当たり5000円以下であり一定要件を満たす費用は、接待交際費から除外して、打合会議費などにできます。
一方、個人事業主の場合は、接待交際費の上限は設けられていません。
とは言え、事業規模や売上高に対してあまりにも接待交際費が多いと、事業とは関係のないプライベートな飲食代やギフト代を経費にしているのではないか、怪しまれてしまったり、税務調査の際に否認されてしまう可能性もあります。
消耗品費
- パソコン・iPad・業務用ソフトなどの購入費
- 仕事をするための机・椅子・PCラック購入費
- ファイルキャビネット・本棚購入費
- プリンター購入費、トナー・インク代 など
車両費(家事按分)
営業・クライアント訪問など仕事の移動で車を必要とする場合、事業で使用する割合に応じて、経費計上することもできます。
- 車両代
- 駐車場代
- 自動車税(勘定科目は「租税公課」が一般的)
- 車検費用
雑費
他に当てはまる勘定科目がない費用について使用される勘定科目です。
比較的少額で一時的な費用について使われます。
数回または何度も計上することがあるものは、新しく勘定科目を作成するなどします。
家事按分の目安・考え方
按分とは「ある基準をもとに物品や金銭を割り振ること」です。
家事按分とは、個人事業主・フリーランスの経理処理において、家賃や水道光熱費、車両費やその他の費用について、生活・プライベートで使用している分と事業で使用している分に分けることです。
生活と仕事で使用しているものは、事業のために使用した分について、経費として計上できます。
自宅兼事務所として家で仕事をしている場合、家賃や水道光熱費などのうち一定の割合を経費として計上できます。
家事按分の比率・基準は、実態・費用ごと・人によってそれぞれです。
家の中で仕事場として使っている部屋の面積の割合や、生活時間と業務時間の割合など、合理的に説明のできる根拠をもとに基準を決定します。
家事按分で経費計上するためには、プライベート部分とビジネス部分をはっきり区分できて、合理的に説明できることが重要なので、仕事専用の部屋や事業用スペースを設けて、基準決定について理由付けができると良いです。
また、専有面積で考えると、事業用のスペースは割合として小さくなるかもしれませんが、業務時間で考えると、生活と仕事が半々くらいになる方もいると思います。
その場合、実態として合理的に説明ができれば、家賃や水道光熱費について按分比率50%として、半額を経費計上することもできます。
借入金の返済は経費ではない、支払利息は経費になる
融資・借入金の元本の返済は、借りたものを返すだけなので、経費ではありません。
融資・借入金の返済の際に支払った利息部分については、経費になります。