マイクロ法人のメリット
法人設立・法人化するメリットは、総じて「利用できる制度・節税の幅が広がる」「資産を増やしていきやすい」ということです。
具体的な様々なメリットのうちの一部ですが、主なものを掲載します。
- 社会保険料の負担を抑えられる(法人と個人で別事業を行う場合)
- 所得税を節税できる
- 社会的な信用を得られやすい(あくまで実態が重要ではある)
節税に利用できる制度や仕組みなどについては、おってまた別の記事で紹介していく予定です。
社会保険料の負担を抑えられる(法人と個人で別事業を行う場合)
個人事業と法人を運営していても、健康保険・年金は法人でのみ入れば良い
個人事業主として2つ以上の事業を行っている方が事業の一部(1つ)をマイクロ法人に移すと、健康保険・年金保険料の金額を抑えることができます。
法人の方で社会保険に加入することが義務付けられます。
「国民健康保険と国民年金」から、「健康保険と厚生年金」に切り替えることになります。
法人の代表者として、会社員のように社会保険料(健康保険・厚生年金)を納付していますので、個人事業の方で別に所得があっても、国民健康保険・国民年金を支払う必要はなくなります。
役員報酬を最低限に設定して社会保険料の負担を減らし、個人事業の所得をしっかり確保
「健康保険と年金の種類が変わっただけで、法人の社会保険料の負担も大きいのではないか?」と思われる方もいるかもしれません。
法人の方では、社長である自分の給料(役員報酬)を自分で決めることができます。
役員報酬を低く設定すると、社会保険料を減らすことができます。
役員報酬を低く設定しても、もう一つ個人で行う事業の方の所得が十分にあれば、問題ありません。
もしこの方向性で節税を図るのであれば、それぞれの事業の売上高・利益や必要な生活費・貯蓄・投資に回すお金などを考えて、個人・法人どちらでどの事業を行うかなど、綿密にシミュレーションする必要があります。
健康保険・年金保険料の負担を2分の1~4分の1に抑えられる場合もあります。
しかし、個人と法人でそれぞれ別の事業を管理・遂行するというのは人によっては面倒に感じることもありますし、所得がそんなに多くなければ節税効果はそれほどでもありません。
配偶者など扶養家族がいる方もなおお得
配偶者など扶養家族がいて、国民健康保険・国民年金を2人分以上納付している個人事業主の方にもお得になります。
法人で入れる社会保険(健康保険・厚生年金)には、扶養という概念があります。
要件を満たす家族は扶養に入れるので、その扶養家族の分の健康保険料・年金保険料を支払わなくて良くなります。
国民健康保険は扶養という概念がないので、家族の分も健康保険料(税)を支払う必要があります(所得のない家族の分は、均等割額のみになります)。
世帯主に納付義務があり、世帯主宛てにまとめて請求が来ます。
法人で加入する社会保険の健康保険の場合は、要件を満たす配偶者などの家族は扶養に入ることができるので、人数分の保険料がかからずに済みます。
国民年金も扶養という概念がないので、個人事業主の時は配偶者がいれば2人分納付しなければなりません。
法人で社会保険に加入して、要件を満たす配偶者が扶養に入れた場合、その配偶者は国民年金の第3号被保険者となるので、配偶者の国民年金保険料を納める必要がなくなります(※注意:第3号被保険者の届出が必要です)。
配偶者は第3号被保険者である間は、お金を納付しなくても国民年金保険料を納めていることになり、将来受け取ることができる老齢基礎年金額が増えていきます。
個人事業と法人で明確に事業を分けることが必要
社会保険料対策も兼ねて、個人事業と法人両方を経営していく場合には、個人事業と法人それぞれで明確に異なる事業を行っていくことが重要です。
事業活動の実態がない法人を設立して所得を分散する行為は、脱税にあたる可能性があります。
あくまで別の事業を運営するのであれば、個人事業と法人を併用することは問題ありません。
分社化するようなイメージです。
例えばですが、
- 個人事業:フリーランスエンジニア 法人:Webメディア運営
- 個人事業:フリーランスWebデザイナー 法人:アフィリエイト、YouTuber
- 個人事業:Web制作・開発 法人:経営コンサルティング・マーケティング
などのように、明確に線引きできる別の事業を行うことが必要です。
必ずしも個人事業と法人両方を経営していかなくても、所得(利益)によっては、個人事業を法人化して法人のみ経営するだけでも節税メリットを享受しやすくなります。
所得税を節税できる
個人事業主の時には使えなかった「給与所得控除」を受けられる
個人事業主の場合は、給料というものはなく、売上高・収入から必要経費を差し引いた金額が実質的に手取り収入のようなものになります。
法人を設立すると、会社員のように法人から給料(役員報酬)を受け取るようにできます。
要件を満たす必要がありますが、この役員報酬は自分で金額を決めることができ、全額経費(損金)になります。
給与所得者になるので、個人事業主の時には使えなかった「給与所得控除」を受けることができます。
年収に応じて55万円以上控除できるので、その分課税所得金額が減り、所得税額を減らすことができます。
給与・賞与を多く設定している人ほど、この控除で浮くお金(節税額)は大きくなります。
所得税は超過累進税率となっており、課税所得金額が大きい人ほど、所得税率が高いためです(税率5%~45%)。
ただし、給与等の収入金額が年850万1円以上は、給与所得控除が一律で上限の195万円となります。
個人事業と法人の税率の違いをよく理解する
個人で行う事業と法人で行う事業に分けると、所得が分散されます。
その点でも、個人事業と法人を併用することで、節税につながる場合があります。
個人事業と法人を併用する形でなくても、個人事業主から法人成り(法人化)するだけで節税につながる場合もあります。
個人事業の場合、前述の通り所得税は超過累進税率となっており、税率は5%~45%(住民税とあわせると税率15~55%)です。
さらに業種によっては、個人事業税が3~5%課せられるので、最高税率は58~60%とも言えます。
色々と学んだり考えながら創意工夫して日々行動を積み重ねた結果、たくさん稼げるようになっても、稼げば稼ぐほど多くの税金が課せられるようになっています。
一方法人の場合、法人税・法人住民税・法人事業税などあわせた実効税率は約25~35%です。
事業の所得があまりにも少ない場合は個人の方が有利ですが、事業の所得(利益)がある程度を越えたら、法人を設立する方がメリットが大きいことが頷けると思います。
社会的な信用を得られやすい(あくまで実態が重要ではある)
個人事業主よりも法人として経営している方が社会的な信用力が比較的あります。
あくまで経営状況や財務体質など実態が重要ではあります。
- 個人事業主ではなく、法人でなければ取引できない企業もある
(たとえ法人であっても、実態によっては与信調査で取引を断られることもあり得る) - もし融資やローンの審査を受ける場合に、個人事業主よりも有利な場合もある
公的年金加入者の3分類で見ても異なるように、「個人事業主・自由業等(=第1号被保険者)」と「会社役員・会社員・公務員(=第2号被保険者)」は社会的に見て違ってくる場面があります。
一人会社と言えど、顧客がいて売上を立てて、法律やルールに則って事業活動を行っていれば、会社です。
個人事業主であれ、一人法人(マイクロ法人)であれ、自分が主体となって事業を行うということは変わりません。
しかし、法人を設立して代表者になると、それだけで見られ方が変わったり、選択肢が広がったり、色々と有利になることがあります。
会社員のように社会保険に加入できて、将来受け取ることができる年金額を増やしたり、様々な制度を利用して適切に節税を行いながら、投資・資産形成を進めていくことができます。
マイクロ法人のデメリット
- 法人を設立するのにお金がかかる(10万円~25万円)
- 法人を維持するのにお金がかかる(年7万円~数十万円)
- 社会保険への加入が義務付けられる(健康保険・厚生年金)
法人を設立するのにお金がかかる(10万円~25万円)
法人を設立する=法人登記を行う
個人事業の場合は、届出だけであれば初期費用がかからず開業できます。
法人の場合は、設立するだけでお金がかかります。
設立費用の目安は、以下の通りです。
- 株式会社の場合 合計25万円~30万円程度
- 合同会社の場合 合計10万円~15万円程度
その他、会社の実印作成に数千円~1万円程度かかります。
素材等にこだわるかどうかで価格は変わります。
私は、代表印(実印)、銀行印、角印の3つがセットになったものを会社設立時にネットで購入しました。
10年近く経っても変わらず使用しています。
実印は会社設立時に印鑑登録をしますし、そうそう買い換えず長く使う物なので、あまり安すぎず、しっくりくる物を選ぶのが良いと思います。
会社設立は専門家に相談・依頼する方がかえって割安
お金がかかるからと言って、専門家に依頼せず自分で会社設立を行おうとすると、余計な時間・労力がかかったり、ミスをしてしまう可能性がある上、さほど節約になりません。
設立時1回きりの作業・手続きに余計な時間・労力をかけるよりも、売上を伸ばしていくための戦略や種まき活動に時間・エネルギーを投じる方が有意義です。
自力で株式会社の設立を行う場合には、基本的に法定費用の実費として、222,000~242,000円かかります(資本金額等により変わる)。
この実費のうち、4万円は定款(会社の憲法とも呼ばれる書類)に貼る収入印紙代です。これは電子定款を選択すれば不要になります。
専用の機器や知識を有し、電子定款を作成できる会社設立の専門家に依頼すれば、実費は4万円安くなり、株式会社の法定費用の実費部分は、182,000~202,000円になります。
あとはその専門家の代行手数料次第ですが、自力で時間や労力をかけて設立する場合と変わらない金額か、むしろ安くスムーズに設立完了できます。
会社設立後の顧問契約等を条件に、代行手数料0円(実費のみ)で手続き代行してくれるという専門家の方もいます。
法人を維持するのにお金がかかる(年7万円~数十万円)
維持・運営していく金額も、個人事業に比べて法人の方が高めです。
ある程度の所得(利益)があれば、節税や資産形成のうえで、個人事業よりも一人法人の方が圧倒的にメリットがありますが、ランニングコストが上がる点はデメリットです。
- 法人住民税の均等割 年 約7万円(赤字でも最低この金額は納税する)
- 税理士費用 年20~60万円程度
※売上規模や委託内容等により変わる
一人会社であっても、株式総会を開催した議事録を取っておいたり、年末調整やその他手続きなど、必要な事務処理があります。
売上を立てることに関係のないことに時間を費やすよりも、税理士さんと顧問契約を結んで、プロ・専門家にお願いする方が楽です。
仮に合計で年間50~60万円かかるとしても、月5万円程でプロフェッショナルの方を雇えると考えると、とてもお得です。
社会保険への加入が義務付けられる(健康保険・厚生年金)
社会保険加入に関しては、人によって見方が変わります。
メリット・デメリットどちらにも掲載しました。
個人事業主として2つ以上の事業を行っていた方が、事業の一部をマイクロ法人に移す場合には、前述の「社会保険料の負担を抑えられる」ということが強力なメリットとなります。
行っている事業が1つのみの個人事業主の方が法人成り(法人化)すると、社会保険料を割高に感じやすいので、大きなデメリットと捉える方もいます。
厚生年金に加入できるのはメリットとも言える
社長一人だけの会社でも厚生年金等社会保険に加入する義務があります。
社保への加入は、デメリットと見るかメリットと見るか、社長によって考え方が分かれます。
個人事業主の時は、国民年金のみに加入することになり、40年間もれなく納付したとしても、将来受け取ることのできる老齢基礎年金は満額で月額65,000円程度です。
一人法人をつくって厚生年金等社会保険に加入できると、給料(役員報酬)の設定次第で、もっと多くの年金を受け取れるようにすることができます。
自分にとって無理なく最適な社会保険料になるよう、役員報酬を設定すれば良い
社長の給料(役員報酬)は、期首から3カ月以内に1回、自分で決定・変更できます。
役員報酬の月額に応じて、月々の社会保険料が決まります。
もし社会保険料の負担が大きければ、役員報酬を少し下げれば、それに応じて社会保険料の金額も少し低くできます。
役員報酬を減らすとしても、もし出張が多い一人社長なら、要件を満たせば出張旅費日当として非課税の収入を増やすなど、合法的な手段を検討できる余地があります。
納める社会保険料のうち、およそ3分の2程度が厚生年金の金額です。
社会保険料は、法人と個人で半分ずつ負担して納付します。
一人社長だと、法人も個人も自分で稼いだお金なので、会社員や個人事業主の時よりも健康保険と年金の支払い額が高めになり、もったいなく感じる人もいると思います。
色々と調べたり真剣に考えるまで、私もそう感じていました。
年金制度の将来性については懐疑的な人も多いかと思いますが、納付する年金保険料が多いほど、将来の受給金額は増えることになります。
役員報酬を下げて、年金保険料をなるべく低くするほど、毎月の支出が減るから得をする、という訳ではありません。
とは言え、無理をしてまで、できるだけたくさん年金保険料を払う方が良いということでもありません。
受け取れるのはずっと先の将来ですし、不確かな部分もあります。
手元の現預金(生活防衛資金)やいつでも換金できる流動性の高い資産を確保しておくことも重要です。
色々とシミュレーションして、売上高・利益の予測や経営状況、投資や貯蓄、節税の選択肢や計画など勘案・吟味した上で、役員報酬の金額を決定して、社会保険料もしっかり納付していくのが良いです。
年金はお得な「節税商品」と見ることもできる
年金制度が少しずつ変わっていく可能性があると思うので、年金だけをあてにすることはおすすめしません。
かと言って、年金をできるだけ払わないという方向性もあまりおすすめできません。
この記事では詳細は割愛しますが、年金は比較的優良な「節税商品」と見ることもできるからです。
法人の方では経費(損金)となり、個人の方では社会保険料控除が受けられるので、節税にもなります。
制度や仕組みに則って、正当に税金の支払いを回避しながら、お金を将来受け取れるように先送りしているようなイメージです。
節税には、「お金が残る節税」と「お金が残らない節税」があります。
年金は「お金が残る節税」の手段と見ることができます。
「お金が残る節税」の仲間として、確定拠出年金(企業型DC/iDeCo)、小規模企業共済、倒産防止共済などがあります。
内容・使い勝手・お得度は異なりますが、ざっくり言うとこれらも結局「税金の支払いを回避しながら、お金を将来受け取れるように先送りする」というものです。
そのようなタイプの「お金が残る節税」という点で、国の年金制度とそれらの節税手段は相通ずるところがあります。
年金制度は変わっていく可能性もありますが、終身にわたって受け取ることができるという点では、どの節税手段や投資商品よりも強い部分があります。
いずれにしても年金だけを頼りにする訳にはいきませんが、終身にわたって受け取ることができるというのは、長生きリスクに備えられる上、長生きするほどお得と言えます。
節税や投資によりうまく資産形成をしていくことが必須となりつつありますが、まずは年金も「もったいない」と思わずにしっかり納付していくことがおすすめです。
できるだけ多く年金を納付したり、その他の節税や投資の選択肢を広げ、対策の効果も大きくするためには、まずは本業のビジネスでの稼ぎを多くすることが重要です。
ビジネスが軌道に乗っていない段階の限られた収入の中では、節税も投資も選択肢が狭まり、効果も小さいものとなります。
売上高や収入は、必ずしも「多ければ多いほど良い」という訳ではありません。税金の仕組みがそうなっています。
まずは節税や投資についてあれこれ考えすぎるよりも、自分の理想的な売上高・収入の金額を見定めて、それに近づいていきましょう。
私もまだまだ精進していきます。